冷徹な総長様がただの幹部(私)を溺愛してくる
仲裁に入った父親に「嘘ついてごめんなさい。本当はお花は好き」と無理やり言わされた。
だから今でも実家に帰ると花畑に連れていかれる。


家族旅行なんてこの世で一番憂鬱な行事だ。

母親の行きたいところに行くだけのツアー。

服も髪型も何もかも母親指定のおままごとのような空間。

にこにこ楽しそうに笑っていないと、体調が悪いのかと過剰に心配されたり、せっかくの家族旅行なのに不貞腐れるなんてみっともないと馬鹿にされたりする。

写真を撮るときに目をつぶってしまったり上手く作り笑いが出来なかったりするとあからさまに不機嫌になってため息をつかれる。

きっとこの夏もどこかに行く計画が勝手に立てられているのだろう。

そう考えただけで心が重く深く沈んでいく。


またあの実家に帰って『一条冴妃』として過ごさなければならないのか。

気を抜ける時間なんて一分もなくてただただ苦しい、あの場所へ。

叶うことならこの榊館で豹牙さんたちとずっと一緒に暮らしていたい。


でもそれが叶わないことは自分が一番よく分かっている。
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