冷徹な総長様がただの幹部(私)を溺愛してくる
私に、まだ両親に歯向かう度胸がないから。
幼少期より植え付けられた両親への服従心が深く根付いているから。
早く断ち切ってしまいたいのに、ここまで育ててもらった恩を仇で返すようでどうにもはばかられる。
あぁ、情けない。
補講も創立記念日パーティも終わった今、もうすぐお盆を迎えるため、そろそろいつ帰ってくるのかと催促されるはずだ。
それに対し「お盆には帰れる!」というメッセージと可愛らしいスタンプを返して、それで・・・。
迫り来る現実から逃れるように、クッションをきつく抱き締めた。
私はこの時期になるとほとんどの時間をリビングのソファーで過ごす。
ここには5人で過ごした思い出がたくさんあるから安心するのだ。
ちゃんと私は『私』だって。
あの『一条冴妃』じゃないんだって。
そう、確信できる。
「冴ー妃。寝るなら自分の部屋戻ったらどうよ」
ソファーの上で丸まって寝ていると、上から声が降ってきた。