冷徹な総長様がただの幹部(私)を溺愛してくる
とりわけ私に対してその傾向がやや強い。
豹牙さんは私が自由に行動した結果怪我を負うことに関しては何も言わないが、他人が原因で私に被害が及ぶことを心底嫌うのだ。
豹牙さんの冷たい眼差しが、あやなの後ろで固まっていた構成員たちへと向けられる。
「お前らも何故冴妃の命令よりその女の我儘を優先したのか理解に苦しむ。鼻の下伸ばしてヒーロー気取りとは無能すぎて笑えないな」
そう吐き捨て、身を翻した。
「もうお前らは必要ない。【黎明】から消えろ」
豹牙さんはもう彼らを見ない。
今この瞬間から彼らは赤の他人になったのだから。
それから私と賢人に視線をよこす。相変わらず目つきは鋭いものの、その奥に宿る感情に怒りはない。
「賢人」
「はい」
「後処理はお前がやれ」
「分かりました」
賢人は胸に手を当てて一礼し、構成員たちに指示を出し始めた。
豹牙さんはその横を通り過ぎ帰路に立つ。
「冴妃、帰るぞ」
「はい」
私は手招きされるがままその後に続く。
後ろから私を呼ぶ声が微かに聞こえたが、振り向きはしなかった。
環あやなはもう、【黎明】の姫ではないから。