冷酷執事の甘くて危険な溺愛事情
でも、埜夜くんの表情を見てると暗い気持ちにはならない。
だけど、フライトの時間が刻一刻と迫ってきてる。
「泣いてるゆずも可愛い」
「うぅ、からかわないで……! ブラジルなんて地球の裏側で、すぐ会える距離じゃないのに……っ」
泣きじゃくるわたしと、いたって冷静な埜夜くん。
この差っていったい。
「すぐ帰ってくるから」
「す、すぐってどれくらい?」
これで一年とか言われたら。
もしかしたら、それ以上に長い可能性だって――。
「二週間だけ我慢して」
「へ……っ、二週間……?」
あれ、なんか想像してたのと違う。
思ったより期間が短くて拍子抜け。
おじいちゃんと話してたとき、すごく深刻そうだったから、すぐに帰ってこられないと思ってた。
「もっと長い期間想像してた?」
「ずっと離れ離れになっちゃうのかと思って……」
「さすがに俺も、ゆずとずっと離れるのは無理だから」
「何しに行くの……?」
「ゆずのおじいさんと約束したこと、きちんと果たしたいんだ」
「約束って?」
「それも帰ってきたらぜんぶ話すから。今は俺のこと信じて待ってて」
最後にギュッと強く抱きしめてくれた。
そして埜夜くんはブラジルへ旅立った。