蜜月溺愛心中
「ありがとうございました」

男性に頭を下げて見送る。しかし、一息吐く暇はない。次の客がレジにやって来た。可愛らしいブラウスを着た二人の女性だ。その二人はレジにいる椿を見て驚いた顔を見せた。

「えっ!!椿ちゃん!?」

「えっ?」

椿もジッと二人を見つめる。一人はショートボブ、もう一人はローポニーテールに髪を結んだ女性だ。この二人を椿は知っている。記憶の蓋がパカリと開き、答えがストンと落ちてきた。

「菜月さん!蘭さん!」

清貴の高校時代の友人だ。水族館で会った際、椿は姫乃のことで逃げ出してしまい、二人とゆっくり話すことはできなかった。あの時のことを思い出し、椿は頭を下げる。

「あの、この前はすみませんでした」

「謝らないで!あれは椿ちゃんじゃなくて、姫乃が悪いんだから」

菜月がそう言うと、隣に並ぶ蘭も首を縦に振る。椿はゆっくりと顔を上げた。二人は申し訳なさそうな顔をしており、椿は「お会計しますね」と言い、二人がカゴに入れた商品のバーコードを読み取っていく。
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