蜜月溺愛心中
「姫乃は来ない」

清貴はすぐに返し、スープを一口飲む。

「あの水族館での一件があるからな。「あいつが来るなら椿には会わせない」と言っておいた。まあ、俺が言わなくともあいつらは空気を読んで姫乃を誘わないと思うが」

「そうですか」

張り詰めていた心が解れていく。椿はゆっくりと息を吐き、スープを口にした。ごま油の香りがふわりと口の中に広がっていく。

「椿」

「はい。清貴さん」

椿が顔を上げた時、彼は真剣な表情をしていた。その凛とした瞳に、椿の頰が色付いていく。

「もしも、他の女に言い寄られても今度は体に決して触れさせない。椿が傷付くようなことはしない。これを誓う。だから、あいつらに会ってやってくれないか?」

椿は優しく微笑んだ。誓うなど、まるで結婚式のようだ。目の前が潤んでいき、煌めく。

「誓わずとも、私は最初から清貴さんを信じています。私の手を離さないでいてくれませんか?」

「もちろんずっと繋いでいる」

いつの間にか、椿と清貴は互いの片方の手をテーブルの上に出していた。その手は温もりを求めるかのように指を絡め、繋がっていく。
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