蜜月溺愛心中

使用人同前の生活を強いられていたせいで、椿にはまともに友達ができたことがない。恥ずかしさと戸惑い、嬉しさが同時に込み上げ、まともに話すことができなくなっていく。そんな椿に助け舟を出してくれたのは、翔太だった。

「おいおい……。椿ちゃん、困ってるぞ〜」

「いつまで引っ付いてるんだ。椿は俺の妻だ。離れろ」

清貴が椿を菜月と蘭から引き離し、腰に手を回す。手を繋ぐ時よりも体が密着している状況に、椿は「き、清貴さん……」とか細い声で講義したものの、彼の耳には届いていないようだった。

「清貴、ずるい！」

「旦那さんだからって！」

菜月と蘭が唇を尖らせ、抗議する。椿が慌てて「次、何乗りますか？」と話題を変える。その時、「やっと帰ってきた」と疲れ切ったような声が聞こえた。

「清貴、腕貸してくれない？ずっと立ってたら足が疲れちゃってぇ〜」

そう言いながら近付いてくるのは、コーヒーカップに乗らなかった姫乃だ。途端に温かかった空気が冷えていく。椿は清貴が取られてしまうのではという思いから、彼の服を掴んでしまう。