蜜月溺愛心中

（あんなに急いでて転ばないかな？）

椿がそう思った刹那、男の子の体がふわりと宙に浮く。そして男の子は地面に叩き付けられた。店内に男の子が転んだ音とジュースが溢れる音が響く。

「うっ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！」

顔を強く打ってしまったであろう男の子は、その場で大声を上げて泣き始めた。ドリンクバーの近くのテーブルからはチラチラとこちらを覗く目はあるものの、男の子に誰も駆け寄ろうとはしない。店内はドリンクバーの周りの席は静かになった気がした。

「僕、大丈夫？お母さんやお父さんは？」

椿はすぐに男の子に駆け寄り、地面に膝をついて「立てる？」と手を差し出す。男の子は涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながらも、その手を取ってゆっくりと立ち上がった。

「怪我はない？どこか痛いところはある？」

椿の問いに男の子は首を横に振る。すると椿と清貴の背後から「すみません！」と声が響いた。椿が振り返ると、顔を真っ青にした母親らしき女性がやって来る。

「さくちゃん、飲み物取りに行く時はママも一緒に行くから声をかけてって言ったでしょ？」

「……ごめんなさい」