蜜月溺愛心中

男の子は母親に抱き付き、母親は困ったような顔をしながらもどこか安心した様子で男の子の頭を撫でる。そして、椿と清貴に「ご迷惑をお掛けしました」と頭を下げながら去って行った。その瞬間、静かだった席は何事もなかったかのようにまた賑やかさを取り戻していく。

「清貴さん、お冷や入れましょう！」

そう椿は笑いかけたものの、清貴は何も言わずそこに立ち尽くしたままだった。その瞳はまるで有名な画家が描いた作品を見ているかのように、熱を持ったまま椿を見ている。

「清貴さん？」

椿が声をかけると、清貴は我に返ったようだった。眼鏡に手を当てながら「すまない」と言った後、清貴は頰を赤くしながら言う。

「……椿は、とても優しい人だ。俺が初めて君を見た日からずっと変わらない」

「えっ……」

清貴の言葉に椿の心臓が跳ねる。しかし、彼の言葉に引っ掛かるものがあった。清貴は「初めて会った」ではなく、「初めて見た」と言った。