蜜月溺愛心中

「お前がどんな生活をしているか、興信所に依頼して調べさせたんだ。まさか医者と結婚をしていたとはな……」

眼鏡をグイッと上げ、智也が淡々とした口調で言う。椿は嫌な予感を感じ、服の胸元を強く掴んだ。その予感は的中することになる。

「さっさとこれ、書いてちょうだい」

梓が椿の目の前に何かを放り投げた。ヒラヒラと落ちてくるそれは一枚の紙だ。緑色をした紙ーーー離婚届である。何故か夫の欄は全て記入がされていた。

「えっ……」

その離婚届を呆然と見つめている椿に、梓が「さっさと記入しなさいよ！」と言いながらペンを放り投げてくる。ペンは椿の頭に当たった後、宙を回転しながらフローリングへと落ちた。カタン、と小さく音が響く。

「あんたにイケメンな医者の妻だなんて、相応わしくないわよ！この人だって、ブスなあんたより私が妻になった方がきっと喜ぶわ。だからさっさと離婚届、記入しなさいよ」

梓がそう腕を組みながら言うと、智也と由起子が口々に「梓の言う通り」と頷きながら言う。ここに椿の味方は誰もいない。