蜜月溺愛心中
「さすが梓だ。あの馬鹿を諦めさせるにはこうするしかないな」

「梓ちゃんの方が、あのイケメンさんの隣に並んでいて絵になるわよ〜。顔合わせの日が楽しみね!」

三人の声はどんどん小さくなっていく。椿は何度も叫びながらドアを叩いたものの、ドアが開く気配はない。

「清貴さん……助けて……」

今頃、マンションに帰って来ているであろう清貴の顔を椿は思い浮かべながらその場に崩れ落ちるようにしゃがむ。フローリングの冷たさに体がブルリと震えた。



椿は両膝を抱えながら、床に捨てられるように置かれた離婚届を見つめる。この部屋に閉じ込められてどれほど時間が経ったのかわからない。部屋には目覚まし時計やベッドなどが一応置かれてはいたのだが、この部屋にはもう何も置かれていない。ただ、冷たいフローリングだけが広がっている。

「清貴さん……」

窓の外に目を向けながら椿は呟く。窓から脱出できないかと鍵を回そうとしたものの、開かないように細工がされてあったため、数秒で諦めることになってしまった。窓の外には空高く月が昇っている。
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