蜜月溺愛心中
好きだ
まるで互いの存在を確かめ合うかのように、椿と清貴は抱き締め合っていた。清貴の大きな手が椿の頭に触れ、髪を撫でていく。

その手つきに椿が胸を高鳴らせていると、耳に怒声が飛んでくる。何を言っているのかはわからないが、その声に椿は我に返った。ここはまだあの安心できる場所ではないのだ。

「椿、行こう」

清貴が真剣な顔になり、椿の手を取ったまま歩き出す。その手は強く握られていた。その時、椿はふと疑問を感じる。

「清貴さん。何故、この家に私がいるとわかったんですか?私は一度も清貴さんにこの家の場所なども言ったことがなかったはずです」

「……知りたいか?」

清貴に見つめられ、椿は「はい」と頷く。清貴の瞳は夜の闇のように暗く、彼が内側に何を秘めているのかその瞳から読み取ることはできない。

「リビングへ行こう」

清貴はそう言い、椿を灰原家のリビングへと連れて行く。清貴はこの家に一度も足を踏み入れたことがないはずだ。しかし、彼はまるで何度も足を運んだことがあるかのように迷うことなく廊下を進んでいく。
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