蜜月溺愛心中

椿は二階へと階段を上り、階段の一番近くにある部屋のドアをノックする。中から返事は返ってこないものの、椿はドアをゆっくりと開けた。

広々とした寝室の中央にはキングサイズのベッドが置かれており、そこには二人の男女がまだ寝息を立てている。椿の父である智也（ともや）と母である由起子（ゆきこ）に彼女は声をかけた。

「お父さん、お母さん、おはようございます。朝ご飯できてますよ。起きてください」

椿の声に智也はすぐに目を開け、怠そうにあくびをしながら枕元に置かれた眼鏡をかけ、寝室を出て行く。この時、智也は椿に挨拶をするどころか目すら合わせなかった。

「お母さん、起きてください」

椿は由起子の体を軽く揺さぶる。すると、目を開けた由起子は一瞬にしてその顔を不機嫌に染め、枕を思い切り椿に叩き付ける。

「うっ！」

枕が当たってしまった胸元が痛み、椿はその箇所をさすった。そんな椿を見て由起子は大声で言う。

「もっとちゃんと起こすことはできないの！？いきなり人を揺さぶって、私とお父さんを殺す気！？本当に使えないわね！！」

「……ごめんなさい」