蜜月溺愛心中
生まれて初めて、椿はこの大都会の景色を「美しい」と思った。窓の外をジッと見つめていると、清貴が隣に立つ。

「気に入ってくれたかな?もしも家具に不満があったなら、椿の好みのものに変えてもらって構わない」

「いえ、そんな!とっても綺麗で素敵なリビングだと思います!変えるなんてありえません」

椿がそう言うと、清貴は「君はそう言うと思ったよ」と微笑む。何故そう思ったのか椿が疑問を口にしようとすると、清貴は「紅茶を淹れる。椿は病み上がりだから休むように」と言い、キッチンへと行ってしまった。

偽りの夫婦としての生活は、こうして幕を開けたのである。



偽りの夫婦としての生活は、驚くほど穏やかに過ぎて行った。椿は焼肉屋での仕事を辞め、昼間コンビニだけで働くようになり、空いた時間を家事に使うようになった。家に住まわせてもらっているということに対する椿ができる唯一のお礼である。

「おはよう、椿」

「おはようございます、清貴さん」

朝、椿は少し早めに起きて朝食を作る。しかし、起きる時間は梓たちと暮らしていた時よりずっと遅く、太陽がもう顔を出している頃だ。
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