蜜月溺愛心中
椿が朝食を作り終えると、すぐに清貴は起きてくる。まるでいい匂いに釣られて起きてくるようで、髪には寝癖がついてしまっている時もある。看護師から「かっこいい」と言われている清貴の寝癖を見て、椿はこっそり笑ってしまうのだ。

「今日もおいしそうだ。いつもありがとう」

「いえ。私にできることは家事くらいしかありませんから」

清貴はいつも椿が家事をするとお礼を言う。その度に、椿は心の内側がくすぐられたような不思議な感覚を覚えるのだ。

(お父さんたちはいつも、口から出るのはお礼じゃなくて罵倒だったから。だから当たり前のことをしているだけなのに、嬉しくなっちゃう)

今日の朝食は、ツナとキャベツのサンドイッチとミネストローネ、そしてミニオムレツとフルーツ入りヨーグルトである。

「いただきます」

二人で手を合わせ、朝食を食べ始める。清貴はミネストローネを一口飲み、目を細めた。

「すごくおいしい。優しくて、温かくて、飲んでいて幸せな気持ちになる」

「あ、ありがとうございます……」

結婚をしてもう一ヶ月も経つというのに、未だに清貴からの優しい言葉に慣れることが椿はできない。胸の中が温かくなり、泣いてしまいそうになるのをグッと堪える。
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