蜜月溺愛心中
「清貴さん。今からどちらへ向かうんですか?」

戸惑いながら椿が訊ねると、伸び放題の髪に清貴が触れた。女性のように華奢な白い指が椿の髪を掬い、椿の頰が赤く染まる。

「まずは、この髪を綺麗にしてもらおう。椿は元がいいんだからおしゃれをしないともったいないだろう。服と下着と化粧品、それからバッグや靴も揃えようか」

「えっ!?わ、私、そんなお金は持っていません!!」

清貴の言葉に椿は慌てて言う。椿は給料が支払われるたびに全額を家族に渡していた。そのため貯金もなく、ボロボロの財布の中にも千円ほどしか入っていない。

「お金のことは心配しなくていい。椿は俺の妻なんだから」

清貴はそう言うと、車を走らせる。椿はお金を出させてしまうことへの罪悪感を感じながら、助手席で体を強張らせながら座っていた。



清貴の宣言通り、椿は美容室へと連れて行かれた。しかもそこは千円カットを売りにしている理容室などではなく、おしゃれな雰囲気の美容室だった。真っ白な外壁に青い屋根の美容室に椿は緊張してしまう。

「あの、ここで本当にカットをしてもいいんですか?」

「美容室に来たのにカットをしないなんておかしいだろ?ほら、行っておいで」

清貴に促され、椿は恐る恐る店内へと入る。梓たちは美容室に毎月のように行っているものの、椿は「金がもったいない」と理容室に一年に一度しか行くことを許されなかった。初めての美容室である。
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