蜜月溺愛心中
「結婚したんだから、指輪が必要だろう?」

「指輪……。そうですね。おばあ様に指輪をしていないと何か言われてしまうかもしれませんね」

今日「デート」と言い一日かけて服を揃えたりしたのは、自分の選んだ女性がみすぼらしいと心配をかけるからだろうと薄々椿は思っていた。

(大きな病院の跡取りの妻がボサボサの髪に古着なんてみっともないって誰でも思うよね。清貴さんは優しいから口にしなかったけど……)

似合っている、というあの言葉や微笑みはただのお世辞だったのかと椿の胸は少し痛みを発する。しかし、それに気付かないフリをして無理に笑顔を作った。

「いい指輪を選ばないといけませんね!」

そう言い、ジュエリーショップのドアノブに手をかけた椿の背後で、清貴は暗い顔をしていた。



その夜、椿は夕食とお風呂を終えた後、早々に与えられた自室のベッドへと潜り込む。一日中歩き続けたため、疲れがドッと体にのし掛かり、ベッドから起き上がれない。

(眠い……)

ゆっくりと目を閉じていく椿の目に、銀色のものが映り込む。左手の薬指に嵌められた指輪だ。一時間ほど色々な種類の結婚指輪を見せてもらったものの、清貴と話し合ってシンプルなデザインのものにした。

初めての指輪は手の一部だけが妙に重く感じてしまった。しかし、どこかくすぐったいような感覚を覚えてしまう。

(初めてのことだらけで、何だか夢みたい)

そう思いながら指輪を見つめ、椿は微笑んだ。同じ頃、リビングでも清貴が指輪を見つめ、「やっと手に入れた」と呟いていた。
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