蜜月溺愛心中
この結婚は偽りのもの。一年で終わってしまう関係だとわかっている。しかし、椿は「幸せにする」という言葉に嬉しさを感じていた。そんな自分に椿は呆れてしまう。

(こんなに舞い上がって、一年だけの契約結婚だってわかっているのに)

しかし、そんな呆れを百合枝や清貴に悟られてしまうわけにはいかないので、椿は顔に新婚夫婦の幸せそうな笑みを意識して浮かべる。

その後、百合枝が二人の近況を訊ね、事前に考えていた通りに椿と清貴は答えていく。しばらくすると百合枝がゆっくりと息を吐いた。

「……ダメねぇ、私ったら」

「おばあ様?」

「清貴のお嫁さんを見たらそれで満足すると思っていました。でも二人を見ていたら、二人の結婚式を見るまでは死ねないと思ってしまいました」

「おばあ様!」

百合枝の言葉に清貴が顔を歪める。今にも泣いてしまいそうなその表情に、椿は清貴の手を優しく握る。ただ、そうしてあげたいと思ったのだ。

「椿……」

清貴が少し驚いた顔を見せる。迷惑だったかと、椿は慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさい」
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