蜜月溺愛心中
これまでの椿の人生の中で、誰かに「出掛けたい」とこれほどまで強く熱望されたことはなかった。使用人のような生活を強いられていた椿に近付いてくる人はおらず、いつも孤独だったのだ。

(私と出掛けたいと思ってくれる人がいる……)

目の前が熱くなり、その熱が形となって溢れてこようとする。それを椿は履いている水色のスカートを握り締めることで何とか食い止めた。

「椿。どこか行きたいところはあるか?」

「行きたいところ、ですか……」

清貴に訊ねられ、椿は自分の行きたいところを考える。頭に浮かぶのは、朝の情報番組やSNSを見て「ここに行きたい!」とはしゃぐ梓だった。梓は、毎日のように新しくできたカフェなどに行きたがり、お気に入りのブランドから新しいコスメや服が発売されるとすぐ買い物に出掛けていた。しかし、椿は買い物やカフェに行きたいという気持ちはない。

(おしゃれなカフェは緊張して気疲れしてしまいそうだし、服やコスメは清貴さんに買ってもらったから必要ないし……)
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