蜜月溺愛心中
椿の脳裏に浮かんだのは、実家での記憶だった。毎日のように怒鳴られることが当たり前となっており、怒鳴られるたびに幼い頃は泣いた。そしてさらに怒鳴り付けられた。その時の恐怖が椿の呼吸を荒くしていく。

「おい!!」

清貴が姫乃に低い声を出した刹那、椿はビクリと肩を震わせ、自身の手を伸ばして清貴の手を掴んだ。

「清貴さん、私は大丈夫です。清貴さんの学生時代のお話なども聞きたいですし、ぜひ一緒に回りましょう?」

「椿……」

清貴は困ったような顔をしながらも、その口角は僅かに上がっているように見えた。それに椿が安堵した刹那、視界から清貴が消えてしまう。姫乃に腕を強く引かれ、清貴が連れて行かれてしまったのだ。

「清貴くん、早く行こうよ!十時からペンギンの散歩タイムがあるんだって!私、それ見たい!」

「おい、離せ!俺はお前と水族館に来たんじゃないんだぞ!」

清貴は姫乃に怒るものの、彼女は気にする様子もなくグイグイ腕を引っ張っていく。椿は呆然と二人を見つめることしかできない。清貴と姫乃を見て、四人は呆れた顔をしていた。
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