蜜月溺愛心中
「梓はお前と違って、大学でしっかり勉強しているんだぞ？梓の希望を叶えてやりなさい！」

「妹にそんな大声を上げるだなんて、なんて酷い姉かしら。梓ちゃんが可哀想だわ」

父である智也は新聞に目を通しながら淡々と、母である由起子は梓の頭を撫でながら、椿を責めていく。椿は唇を噛み締め、朝食を作り直し始めた。

銀行の頭取である智也と専業主婦である由起子の元に生まれた椿にとって、この家は牢獄そのものだった。物心ついた頃から二人の目はいつも妹である梓に向けられ、椿に目が向けられるのは決まって叱られる時だけだった。

梓は誕生日やクリスマスでなくても、ほしいものを何でも買ってもらえた。逆に椿は「お姉ちゃんでしょ」も言われ続け、おもちゃはおろか服の一枚すら新しいものを買ってもらったことはなかった。

さらに、小学校高学年から椿は家事を由起子から押し付けられるようになっていった。椿が一枚でも皿を割ってしまったり、部屋の隅に埃が落ちていたりすると、部屋に閉じ込められ、食事を取ることを許されなかった。しかし、梓は家事を一つも手伝うことはなく、それを両親も良しとしていた。
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