蜜月溺愛心中
(こんなにたくさんあると、嫌でも迷う……)

着物を一つ一つ見ては、椿は思ってしまう。百着は超えるであろう着物に、他の人たちも迷っているようだ。

「清貴さんは、もうお決まりですか?」

「ああ。これにしようと思っている」

清貴が手に取ったのは黒い着物だった。男性用の着物は女性用とは違い、無地なものしかない。色や羽織りなどで格を上げ下げすることが多いそうだ。

「清貴さんにきっとそのお着物は似合うと思います。清貴さんにぴったりの色です」

それに比べて、と椿は目の前に並べられた着物を見つめる。どの着物も華やかな柄が散りばめられ、美しい。しかし、どれも自分には不似合いだと思ってしまう。

(梓なら、すぐに着物を選んでいたんだろうな……)

周りを見れば、悩んでいた様子の女性たちが次々と着物や帯を決め、それに合う髪飾りや鞄を選んでいるところだった。清貴を待たせてはいけない。そう思うものの椿は着物を選べずにいる。
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