蜜月溺愛心中
(もしも、清貴さんが私を求めてくれたら……?)

異性と交際した経験すらない椿にとって、想像するだけで顔から火が出てしまいそうである。しかし、それと同時に何故か幸せや喜びを感じている自分がいた。

(触れられたい。触れてしまいたい……)

無意識にそんなことを考えてしまい、その気持ちを誤魔化すために慌てて椿は部屋に置いてあるお茶を手に取る。

「清貴さん。お茶、飲みますか?」

「淹れてくれるのか?ありがとう。いただこう」

清貴の声や表情はいつもと変わりない。意識している自分が馬鹿馬鹿しいと椿は息を吐き、急須にお茶っ葉を入れた。



老舗の旅館なだけあり、用意された夕食はとても豪華でまるで芸術作品を見ているような気分を感じながら椿は食べた。初めての温泉も肌がスベスベになり、驚きを感じつつも嬉しくなる。

(旅行、すごく楽しいな……)

旅館の浴衣を着て、椿は大浴場の外へと向かう。大浴場の外で清貴と待ち合わせをしているのだ。椿が暖簾をくぐると、すでに清貴はソファに座って待っていた。
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