蜜月溺愛心中
椿が主に酌をしていたのは、智也と由起子に対してである。二人が高級なワインやビールで晩酌すると決めた後は、椿はひたすら二人のグラスに酒を注ぎ、つまみを用意し、二人の使ったグラスなどを片付けていた。

(そういえば、清貴さんがお酒を飲んでいるところを一度も見たことがなかったな)

冷蔵庫にはアルコール類は置かれておらず、清貴が酒の匂いを纏って帰ってきたこともない。飲めない人などだと椿は思っていたのだが、違ったようだ。

数分後、部屋の扉がノックされ、ゆっくりと開く。日本酒を持った従業員が頭を下げた。

「失礼します。日本酒をお持ち致しました」

「ありがとうございます」

清貴はお礼を言い、日本酒を受け取る。そして陶器製のお猪口に日本酒を注ぎ、それを煽った。彼の喉が大きく動く。

「清貴さんはお酒、好きなんですか?」

「毎日飲みたいとは思わないが、こういうところへ来た時は飲みたくなるな」

椿の質問に清貴は答えた後、またお猪口に口をつける。それをしばらく見つめた後、椿は再び箸を動かして料理を口を運ぶ。
< 96 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop