自殺をしたい君と一緒に過ごす僕

聖なる夜

今年のクリスマスも雪がよく降る。

僕の息は闇に溶け、最後は消えゆく。寒いという感覚はあまり無いので長袖にズボンの格好で歩いてる。逆に夏はコートを着たくなるのだが。自律神経がおかしいのか性格が変わってるのかは分からない。

都会はイリュミネーションで輝いてる。その中で家族とかカップルが楽しそうに歩いてるのを見てると、今から自殺を手助けしにいく自分とはなんか真逆な世界というか。同じように歩いていても景色を見ていても考え方が違うんだなって思う。クリスマスというのはワクワクする行事だというのに、僕はそんなものに興味が無いのだ。


都会を抜け、路地裏を抜けたところに小さな公園がある。そこは人が居なく、ひっそりしている。確か依頼主は公衆トイレに居るはず。

公園だけは妙に雪が積もっているため歩きにくいが、トイレまではそんなに距離が無かったのでなんとか着いた。

明かりが点いてる女子トイレに入ると、尿の臭いが鼻をツンとした。掃除が行き届いて場所らしく、ハエが集ってる。僕は平気だが、一応女性の依頼主と聞いてるのでその依頼主は大丈夫なんだろうか。まぁ死にたいと思ってる人間がそれぐらい気にならないものかもしれないが。

一番奥のトイレから啜り泣きが聞こえる。ああ良かった。ちゃんと居た。

僕はそちらへ行き、ドアをノックした。微かに血の匂いがする。

「あのー、依頼主の椎葉愛さんですか? SNSの者です。良かったら開けてくださいー」

啜り泣きが止んでから数分後に開けてくれた。

おお、左手首が血まみれ。動けるのが凄いぐらいの量。リスカに慣れてるのだろう。傷だらけだし。

彼女、椎葉愛はほぼ下着状態で現れた。寒くないのだろうか。それよりも血の量。元々色白そうなのに貧血でさらに真っ白というか真っ青だ。後、若い。化粧で顔が汚いがかなり幼く見える。

「...本当に来たんだね...。割とイケメンかも...」

彼女は小さく笑った。笑ってる場合なのか。

「えーと...僕はどうしたら良いんですかね」
「死ねないの」

うん。だからどうしたら良いの。

「血の量的にそろそろ死ねると思いますよ。見てるだけで良いですかね?」
「そんなことで呼ぶはずないじゃない...」
「はぁ...」

じゃあなんだろう。自殺の手助けとはいえ、直接的には殺せないんだよな。基本見てるだけとか、こうしたら良いの助言ぐらいで。じゃないと捕まりやすいからね。

「私...死んだ方が良いのか、生きて欲しいのか決めてほしい...」
「誰がですか?」
「貴方に決まってるでしょ...」
「ええ」

なんという展開だ。まさか初めましての方に生命を預けるなんて。というか生きて欲しいの時点で実は死にたく無いじゃないのか。

「決めろと言われましても。自分の命は自分で決めるべきですよ。僕の仕事は基本見るだけというか...」
「でも私...分からないの...。生きたいのか、死にたいのか。もうなんかグチャグチャで...」

彼女は急に倒れた。さすがに無理があるよね、その血の量じゃ。

「大丈夫ですかー」

僕は棒読みで言うが、彼女は呼吸を荒げるだけで返事をしない。

たぶんこのまま行けば死ぬだろう。そしたらこの依頼は終わる。どうせ遅かれ早かれいつか死ぬ身だろうし、今回で終わらせた方が良いじゃないかな。僕には死ぬ人の気持ちなんて分からないが、この人は多分色々あってああなりこうなり結果、こうなったのだ。死ね無かったらまた自殺をするんだろう。だからこのまま...。

「...し...しに...たく」
「?」
「し...死にたく...ない」

彼女はうわ言のように呟いた。死にたくない。聞き間違いではなかった。

死にたくない。死にたくない、かぁ。困ったな。依頼主の意思を尊重するのが僕のポリシーだからなぁ。自殺というのはとりあえず自分で決める事だから、嫌なのに死んでしまうのは殺人と変わらないんだよね。自殺も殺人と然程変わらないって唱える人も居るけど、やはり意思があると無いとでは理由が変化するだろう。

聞きたくなかったなぁ。これで死なれたらなんかモヤモヤする。

考えてる間に彼女の命は削れていく。


決めろ、ね。
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