クズなアイツが惚れたなら、

「夜市くん、帰ったんじゃ…」

「そんな薄情じゃねーわ」


どの口が言うんだと思いながら、携帯を握る。

すぐさまタクシー会社に電話をかけた。


10分くらいかかるらしい。


……寒すぎだっての。




「電車で帰れたのに」


申し訳なさそうにこっちを窺う梅野。



「タクシーの方がはやい」

「…ありがとう」

「そう思うなら、上着よこせ」

「え、」



夜の湿った空気と冷え込んでいく風に耐えきれなくなって、梅野のコートの裾を引っ張る。

ぱちりと目を瞬いた梅野が、わかったよと脱いで渡してきた。



「なんで夜市くんは、なにも羽織ってこなかったの」

「こんな寒くなると思ってなかったんだよ」



身に纏った梅野のコートはずいぶんと小さかったけど、それが余計に隙間を埋めてくれて助かった。
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