クズなアイツが惚れたなら、

あの夜から、どう足掻いたって脳内にふと顔を現す。

……梅野め、勝手に不法侵入してくんな。


短いため息を落とすと、ここに座って、と女が腕を引いてくる。



「お名前は?」

「夜市氷牙」

「何歳?」

「17歳」

「せっかくだし、なんか歌う?」

「いや、歌とかはとくに」

「ちょっと! さっきからなんであなたが答えるわけ? わたしは氷牙くんに聞いてるの!」

「あーごめん、ついクセで」



質問にすべて的確に答えた直江は、楽しめよとだけ呟いてマイクの方へ向かっていった。



「氷牙くんって言うんだー、素敵な名前。わたしたち女子校だから、こんなイケメンと関わったことないんだ。もー、来て良かったー!」

「ね、好みの子とかいた? わたしなんかどう?」

「ちょっと、あんたはあっち行ってよ」

「やだよ、わたしだって氷牙くんと話したいんだから」




頼むからそのまま言い合いしててくれ、と思いながら宙を見る。
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