クズなアイツが惚れたなら、


声をかけるよりも早く、梅野の視線がずれてこっちに気づく。



「おはよう、夜市くん」


さっきまで険しかった梅野の頬が和らいで俺に向けられる。

ずるい無防備にまんまとやられ、そんな自分自身に戸惑っていると、



「おっはよー、ゆいちゃん!」


「あ、直江くん、おはよう」


「………(くそやろう)」



空気を読むカケラもない軽い声が後ろから現れた。



「なんか今日のゆいちゃん、いつもよりキラキラしてない?」

「え?」

「髪さらさらだし、顔は元からばっちしだけど今日は一段と美しいよ」

「あ、ありがとう」



なんなんだ急にこいつは。

気色悪い笑顔を向けられ困っている梅野の前に割って入る。すると、直江もこっちを向いた。



「ねぇ、氷牙、氷牙もそう思うでしょ?」

「あ?」

「え、機嫌わるっ」



おまえのせいだ、おまえの。

完全に梅野に挨拶を返すタイミングを逃した。

< 135 / 250 >

この作品をシェア

pagetop