クズなアイツが惚れたなら、
声をかけるよりも早く、梅野の視線がずれてこっちに気づく。
「おはよう、夜市くん」
さっきまで険しかった梅野の頬が和らいで俺に向けられる。
ずるい無防備にまんまとやられ、そんな自分自身に戸惑っていると、
「おっはよー、ゆいちゃん!」
「あ、直江くん、おはよう」
「………(くそやろう)」
空気を読むカケラもない軽い声が後ろから現れた。
「なんか今日のゆいちゃん、いつもよりキラキラしてない?」
「え?」
「髪さらさらだし、顔は元からばっちしだけど今日は一段と美しいよ」
「あ、ありがとう」
なんなんだ急にこいつは。
気色悪い笑顔を向けられ困っている梅野の前に割って入る。すると、直江もこっちを向いた。
「ねぇ、氷牙、氷牙もそう思うでしょ?」
「あ?」
「え、機嫌わるっ」
おまえのせいだ、おまえの。
完全に梅野に挨拶を返すタイミングを逃した。