クズなアイツが惚れたなら、
梅野と俺を交互に見た直江が、ずずーっと俺を引っ張る。
そしてなぜか小さい声で喋りだした。
「おまえ、なに俺のゆいちゃんを少しでも元気づけよう作戦を邪魔してくれちゃってんの」
「俺のゆいちゃんだあ?」
「ちがうっ、俺の、『ゆいちゃんを少しでも元気づけよう作戦』ね? 区切り忘れないで、区切り」
「なんだ、その作戦」
「ゆいちゃん、ひどい噂流されて今苦しんでるでしょ? 女神女神とか言ってた男子もああだしさ」
梅野によくしてもらった男たちも、花音やその取り巻きに立ち向かう行動力はないらしい。
まあ、想像通りではあるけどな。
「だからこそ俺と氷牙でしょ。少しでも明るく、楽しくしないと。そんで、俺の朝から褒め褒め大作戦を台無しにしたのがおまえな?」
「わかるか! それに、おまえがやんな」
「え?」
「……梅野を元気づけるのは………俺が、やる」
すぐそばにいる本人に聞こえない程度に出てきたか細い声。
ぱちくりと目を瞬いた直江が途端にニヤニヤしだす。
「ふ〜ん」
「…なんだ」
「なるほどね〜」
「だからなんなんだよ!」
「なんでもなーい、がんばってねー、夜市くーん」
ぺちゃくちゃ喋っているうちに朝礼の時間になり、みんなと同様、梅野も教室に入っていく。
全て見透かしていそうな直江のムカつく応援を頭の隅に追いやって、俺もドアをくぐった。