クズなアイツが惚れたなら、


仄暗い道を歩きながら電話をかける。

2コールで元気な声が現れた。



「もしもし、氷牙? え、氷牙? 間違えてかけた? あれか、携帯構ってたらポチッと俺の名前押しちゃったパターン? それともマジで俺にかけた? いや、ないか。おまえから電話くるなんて何億年ぶりだよ!」

「……頼むから喋る隙をくれ」

「マジデヒョウガダ」



間抜け面をしているであろう直江に、今どこにいるのかと聞く。



「俺、普通に帰り道だけど」

「そうか、ならUターンしろ」

「いやいや、なに自然に言ってんの。もう家着くんだけど!」

「どうせ暇だろ」

「暇だけど! なんだよ、しろって。頼み事なら、してくださいだろ?」

「……Uターンしてくれ、頼む」



ふふふふ、と不気味な笑い声が聞こえ、すぐに切ってやろうかと思う頭を我慢で抑える。



「どこ?」

「ファミレス、俺の家の近くの」

「あー、あそこ? なんで急に?」

「梅野がバイトしてんだよ」

「は?」

「とりあえずそこ集合な」



これ以上繋げていると根掘り葉掘り聞かれそうで、有無を言わさず電話を切った。


……行ってどうするんだ、俺。


まだ考えのまとまってない頭より先に身体が向かう。


自分がどうしたいのかは不透明なままなのに、今はただ、梅野に会いたかった。

< 139 / 250 >

この作品をシェア

pagetop