クズなアイツが惚れたなら、
仄暗い道を歩きながら電話をかける。
2コールで元気な声が現れた。
「もしもし、氷牙? え、氷牙? 間違えてかけた? あれか、携帯構ってたらポチッと俺の名前押しちゃったパターン? それともマジで俺にかけた? いや、ないか。おまえから電話くるなんて何億年ぶりだよ!」
「……頼むから喋る隙をくれ」
「マジデヒョウガダ」
間抜け面をしているであろう直江に、今どこにいるのかと聞く。
「俺、普通に帰り道だけど」
「そうか、ならUターンしろ」
「いやいや、なに自然に言ってんの。もう家着くんだけど!」
「どうせ暇だろ」
「暇だけど! なんだよ、しろって。頼み事なら、してくださいだろ?」
「……Uターンしてくれ、頼む」
ふふふふ、と不気味な笑い声が聞こえ、すぐに切ってやろうかと思う頭を我慢で抑える。
「どこ?」
「ファミレス、俺の家の近くの」
「あー、あそこ? なんで急に?」
「梅野がバイトしてんだよ」
「は?」
「とりあえずそこ集合な」
これ以上繋げていると根掘り葉掘り聞かれそうで、有無を言わさず電話を切った。
……行ってどうするんだ、俺。
まだ考えのまとまってない頭より先に身体が向かう。
自分がどうしたいのかは不透明なままなのに、今はただ、梅野に会いたかった。