クズなアイツが惚れたなら、
「夜市くん…?」
突き進んでいた思考が急に赤信号になった。
「さっきから黙りこんでるけど、もしかして具合悪い?」
ひょこっと斜め前から顔を乗り出して、不思議そうにこっちを見る梅野。
「……っ、」
……脳がイカれやがった。
こんなので可愛く思うとか、もうだめだろ、俺。
「顔も赤いし、熱でもあるんじゃ…」
「赤くねーわ!」
「え、なんで怒った?」
「お、怒ってねぇ」
本気で火照ってくる頬をどうにか冷まそうと首元を緩める。
そのせいで滑り込んだ風になんとか耐えながら前に進んだ。
狭い道の方に入っていくと、梅野の携帯が鳴って。ちょっと出るねと言いたそうな顔が逸れて目で追う。
「うん、大丈夫だよ。え? ほんとに大丈夫、心配しすぎだって。うん、わかった、うん。おやすみ、お兄ちゃん」
ほぼ9割、相手は布瀬だと思っていた予想が外れ、くいっと睫毛が持ち上がった。電話を切った梅野に身体を向ける。
「ふたり? 兄貴いるんだよな」
たしか、前にそう言っていた。
一緒には住んでなかったはず。
「うん、時々電話くれるの。こっちに来た時はよくわたしの好きな商店街に連れてってくれるんだ」
「…商店街?」
「うん」
ふと浮上したのは何ヶ月か前の噂。
なんだ、商店街で男ふたりを連れ歩いてたって、兄貴たちのことか。
べつに噂を信じていたわけじゃないけど、そういう意味での真実だったことに少しほっとする。