クズなアイツが惚れたなら、
今のとこ気に入るところがひとつもない梅野だけど。
ひとつだけ、いいと思ったのは……姿勢。
背もたれに当てず、ぴん、と真っ直ぐに伸びている小さな背中だけは、なぜかいいと、そう思った。
上履きが歩く音はもうない。
梅野がページをめくる音は眠りにつくにはちょうどよく、やっと身体の力を抜ける。
そう思っていたのに、
___ガラッ、ドタッ、カッカッ。
今度は騒がしい音が響く。
「あーもう、こんなとこにいたあっ」
……ふざけんな。
ねっとりしたその声色に、俺はもう寝ることを諦めた。
「なんで逃げんのよー」
「そういうおまえはなんで追ってくんの?」
「だって、氷牙と久しぶりなんだよ?少しくらい構ってくれたって」
「そういうの、俺が嫌いだって知ってんだろ」
「そ、そうだけど」