クズなアイツが惚れたなら、
あー、うざい。
だから嫌なんだよ。
遠慮なく吐き出したため息が自分に向けられているものだと気づきもしない女に、ほとほと呆れて上を向く。
そうしている間にも、一歩、距離が詰められていった。
「梅野」
「う、ん?」
ふいに、よからぬ考えが通過する。
「ちょっと今から悪いことするぞ」
梅野の近くに寄って、梅野にしかわからない距離で呟いた。
そのまま腕を引いて、抱き寄せる。
「っ…」
手を添えた首筋にそっと唇を触れさせれば、微かに震えた身体が抵抗するように俺を離そうとシャツを引っ張る。
その力が思ったよりも強くて焦った。
…あっぶね。
幸い、女には見えていないらしく、悔しがるように唇を噛んでいる。成功だ。
「こーいうことだから、邪魔すんなよ」
「っ、もーいい!」
ドカドカ駆け足で去っていく女。
助かった…。
そうやってひと息ついて身体がほわっとするように油断していた俺は、──パッチンッと。
だいぶ大きく叩かれた音に気づくのが遅れた。