クズなアイツが惚れたなら、
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───コンコン。
「どうぞ」
病室から聞こえた柔らかな声に安堵してドアを開ける。
「母さん、ゆいがりんご持ってきてくれたよ」
ベッドの脇の小テーブルに荷物を置き、横たわっている布瀬くんのお母さんに笑いかける。
まだ顔色は安定していないようだった。
「ごめんね、ゆい、今日も来てもらって」
「ううん、と…」
友達だから、と言うつもりの言葉は頭で消して、「もちろん来るよ」と言い直す。
外は薄暗く、ぱらぱらと雨が降り出していた。
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『母さんが、倒れた』
それは冬休みのこと。色のない瞳で訪ねてきた布瀬くんは、今にも泣きそうな顔をしていた。
強く引かれた腕と、寄りかかる身体。
初めは動揺したけれど、震えている布瀬くんを突き放すことなんてできるはずがない。わたしはそっと、慰めるように背中を包んだ。
「布瀬くん…」
「なにも、言わないで」
首元に乾いた吐息がかかる。
酷く冷めた温度を受け止めながら、消えそうな体温に胸が痛んだ。
とりあえずお茶でも出して落ち着かせようと部屋に入れると、布瀬くんは驚きの一言を放つ。
「こんなとき言うことじゃないんだけどね。
ゆい、俺……………ゆいが好きだよ」