クズなアイツが惚れたなら、
「顔あげてよ、ゆい」
いつの間にか俯いていた頭を布瀬くんの声に引っ張り上げられた。
「俺はね、できることなら、ゆいにもう一度そういう感情を芽生えさせるのは俺がよかった。
…でも、こればっかりは、どうしようもないね」
布瀬くんが手を差し出してくる。
今度はあの日の繋ぐような手とは違う、真っ直ぐに指先はこっちを向いて。
「俺が弱ってる時にゆいが身動き取れないの、わかってた。卑怯な手を使ったんだよ、俺は。だから今度はちゃんと送り出す。
……笑っててほしいんだ、ゆいには。今みたいに悲しそうな顔をしてほしいわけじゃない。そんなのは望んでないし、今そうさせてるのは俺だって気づいた………いや、とっくに気づいて先延ばしにしてた。
………夜市のとこ、行っておいで」
目の奥がゆるゆると揺らぐ。
でもここでわたしが頬を濡らすのは違う気がするから、口を結んで耐える。
「はい、ちょっとさよならの握手しよう。俺が夜市の隣にいるゆいを見ても大丈夫になるまで」
それまでちょっとだけ離れていよう、と、布瀬くんがふわりと笑う。
手のひらを強く握ったら、たくさんの記憶が蘇ってきた。