クズなアイツが惚れたなら、
繋がった想い
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「氷牙、入るぞ」
父さんの声がして、ガチャリとドアが開けられた。
足音が止んだのはベッドの前で、布団を被っていた右側の耳が、すとんと腰を下ろしたような気配を感じ取る。
「今日も夕飯食べなかったな。どうした?」
昨日から連続で夕飯に顔を出してない。
心配させているのはわかっていた。
「食欲が、なくて」
「………そうか。……悩みでもあるなら相談しろよ? あまりたいしたアドバイスはできないけどな」
布団から視線を覗かすと、にこりと笑う父さん。
「…………父さんって、母さんとはいつから…?」
「ん?」
「高校、同じだっけ。いつから仲良いんだ?」
「珍しいな、氷牙がそんなこと聞くなんて」
ぱちりと瞬いた目を丸くした父さんが、思い馳せるように上を向く。
「そうだな……、高校は一緒だったけど、あまり話したことはなかったな。仲良くなったのは大学だな。
ほら、父さん、酒弱いだろ? たまたま飲み会で先輩たちに合わせて飲んでたら、気持ち悪くなって。それでも飲め飲めってコールに内心きついな…ってなってた時、隣だった母さんがぐびっと代わりに飲み干してくれたんだ。
そしたら、女に守ってもらうなんてダサいぞって笑う先輩に、いい加減にしないさいよ!っていきなりタメ口になったんだよ。さっきからダサいコールばっか延々と聞かされて、お酒がまずくなってるのはあんたたちのせいよって、大声出して。もう、その場のみんな、ぽかんってなってて。
普段はぽやぽやしてる印象だったんだけど、シャキッと言いたいことは言うギャップに、あーいいな、この人って………俺が最初に文香に目つけた時の話」
「…………そこまで聞いてねー」
「おい、いいだろう、息子にくらい惚気ても」