クズなアイツが惚れたなら、
繋がった想い



*

*



「氷牙、入るぞ」


父さんの声がして、ガチャリとドアが開けられた。

足音が止んだのはベッドの前で、布団を被っていた右側の耳が、すとんと腰を下ろしたような気配を感じ取る。



「今日も夕飯食べなかったな。どうした?」



昨日から連続で夕飯に顔を出してない。

心配させているのはわかっていた。



「食欲が、なくて」

「………そうか。……悩みでもあるなら相談しろよ? あまりたいしたアドバイスはできないけどな」



布団から視線を覗かすと、にこりと笑う父さん。




「…………父さんって、母さんとはいつから…?」

「ん?」

「高校、同じだっけ。いつから仲良いんだ?」

「珍しいな、氷牙がそんなこと聞くなんて」




ぱちりと瞬いた目を丸くした父さんが、思い馳せるように上を向く。




「そうだな……、高校は一緒だったけど、あまり話したことはなかったな。仲良くなったのは大学だな。

ほら、父さん、酒弱いだろ? たまたま飲み会で先輩たちに合わせて飲んでたら、気持ち悪くなって。それでも飲め飲めってコールに内心きついな…ってなってた時、隣だった母さんがぐびっと代わりに飲み干してくれたんだ。
そしたら、女に守ってもらうなんてダサいぞって笑う先輩に、いい加減にしないさいよ!っていきなりタメ口になったんだよ。さっきからダサいコールばっか延々と聞かされて、お酒がまずくなってるのはあんたたちのせいよって、大声出して。もう、その場のみんな、ぽかんってなってて。

普段はぽやぽやしてる印象だったんだけど、シャキッと言いたいことは言うギャップに、あーいいな、この人って………俺が最初に文香に目つけた時の話」


「…………そこまで聞いてねー」


「おい、いいだろう、息子にくらい惚気ても」
< 207 / 250 >

この作品をシェア

pagetop