クズなアイツが惚れたなら、



梅野のことが、なんで好きか……?

数秒間ぐるぐると視線が動いて、脳内で答えを探す。だけど、すとんと、頭ではなく胸のあたりに落ちたきたのは。


そんなもの、なんでとか、わかんねぇ。





例えるなら、映画のなか。

恋人を想って泣いている主人公に涙のひとつも出ない俺。

どうでもいいと欠伸しながら惰性で見ているけど、想う対象が梅野なら、胸の中心が確かに痛みを訴えるから、あーやっぱ梅野は特別なんだな、と、そう思う。




「うまく、答えられないでしょ?」



小さく頷くと梅野が「わたしも」と言う。




「それっぽい理由はうまく言えないけど、夜市くんのここ好きだなぁって、ふとした瞬間に思うの」

「…………」

「今だって、夜市くんすぐ拗ねるのに、割とすぐ原因話してくれるとこ、好きだよ?」

「っ、すぐ拗ねるってなんだよ」

「あははは、まぁ、うん。心配しなくても、わたしは結構ほんとに夜市くんが大好きなので…」




………ずるいだろ、マジで。


はぁ、と今度は別の意味で漏れたため息に梅野が顔をあげる。

我慢できなくなって唇に触れれば、すぐに熱が宿っていく小さな瞳。可愛くて仕方ない梅野に、夕方の道端で理性が抑えられなくなっていく。

< 249 / 250 >

この作品をシェア

pagetop