クズなアイツが惚れたなら、

やっと誰もいなくなったな。

頃合いを見計らうのはいちいち面倒ではあるが、噂になったらなったで、そっちの方が面倒なんだからしょうがない。



「やる」


短い返答に梅野がぐ、と眉根を寄せた。


「わたしの都合がよくないって言ったら?」

「よくねえの?」

「……」



なんだこいつ。

べつに用事はないけど、俺に勉強を教えるくらいなら帰りたいってか?

今日はやけに不機嫌そうな表情に、俺も似たように顔を曇らせる。



「…夜市くんさ、」


不意に呼ばれて顔をあげると、梅野が俺をじっと見つめてきた。

なにを語るわけでもない瞳を見つめ返す。

しばらくして逸らした梅野が、なんでもないと言ってイスを引いた。



……なんだよ。
呼んでおいて、なんでもないって。

明らかになにか言いたそうだったくせに。
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