クズなアイツが惚れたなら、

「男関係か」

「当たり」


ぱちぱちと手を鳴らす先輩は慣れている様子で、赤くなった頬を伸ばして、はは…と笑う。



「大変だねえ、愛(あい)先輩も」

「…その名前、呼ばないで」


わざとでしょ、と眉をしかめる先輩に、俺も、当たりと返した。


先輩は愛って名前が嫌いらしい。

これは遊び関係になる際に聞いたことだ。


面白がって何回か名前を呼べば、黒い笑みと一緒に足を思いっきり踏まれたこともあった。



「氷牙はなにしに来たの?」

「安らぎを求めて?」

「女の間違いでしょ」


よっとベッドから降りた先輩が、悪いけどあたしは今日はパス、と俺の肩に手を置いてドアを開ける。


「氷牙も痴情のもつれには気をつけなー、あたしみたいに痛い目遭うから」


じゃーねーと言った先輩は、そのまま廊下の向こうへ消えていった。
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