クズなアイツが惚れたなら、
「あー、氷牙〜」
ベッドでも借りようと思っていると、今度は先輩とは雰囲気の違う甘えるような声が聞こえて振り向く。
…なんだ、こいつか。
先輩と入れ違いで入ってきたらしい。
ドアに手をかけてにこっと笑いかけてきたのは、同じクラスの花音《かのん》だった。
「偶然じゃん、なに、相手探し?」
付き合おっか?と裾に触れてくる指先。
クラスの中心的立ち位置の花音とは、つい最近、関係を持ったばかりだった。とは言っても、まだそういう行為をしたわけではなく、ただ、何度か誘うように触れてくる花音を適当に相手しただけなんだが。香水がきつい花音は、その分、記憶にも残りやすい。
いつものようにされるがままで見下ろしていたら、派手にメイクされた顔が近づいてきて、顔を背ける。
その動作に赤い唇が小さく尖った。
「氷牙ってほんと、キス嫌いだよね」
「まあな」
よくねだられることのある唇を重ねるキスは、あまり好きじゃない。
何度か女から押し当てられたこともあるが、その度に突き飛ばしてしまいたい衝動に駆られる。