クズなアイツが惚れたなら、
「勘違いしてないか? 俺はおまえだけに絞るつもりは、さらさらない」
「なっ、どうして? 花音、顔だっていいし、お金だってたくさん持ってるし、氷牙が望むもの全部あげられるよ」
はあーっと盛大にため息を吐く。
そうでもしないとやってられない。
なんなんだ、急に。
「こういうのはお遊びだろ。それにおまえ、俺が平凡以下の顔立ちでも、今と同じこと言えるのか?」
「っ、」
慌てた表情。そこにあるのは迷いでもなんでもなく、完全なる否定の戸惑い。
直感でわかるんだよ、花音は、いい男を欲しがる。もっと言うならば、誰もから羨望の眼差しで見られるような、そういう男を隣に飾っておきたがる。そんな馬鹿げた優越感に付き合おうとは思わない。
「これ以上を望むなら終わりにする」
だんだんと怒りに満ちていく顔が俺を睨みつける。
「女子にチヤホヤされるからっていい気になって」
おまえもそのひとりだろ。
いまさら、どの口が言うんだか。
そう思いながらおとなしく聞いてやる。
「せっかく今の彼と別れてまで氷牙を選んであげようと思ってたのに!」
「いらねーよ」
睨み返してそう言うと、あっそうと、背を向けて駆けていった。
残された廊下の隅で壁にもたれる。
どっと疲れが押し寄せてきたと同時に欠伸まで追い打ちをかけてきて。
チャイムはもう鳴った。
…これじゃ、無駄に授業さぼっただけじゃねえか。
最悪だ。