クズなアイツが惚れたなら、
背中を陰が追い越す前に床を拭き終わって、後ろにやってあった机を元に戻す。
あとは最後列の木目の床だけ拭けば終わりのはずだった。
それなのに。
「夜市くん、ここも拭いて」
「あとできたら、水槽も、綺麗なやつで」
俺が協力しているのをいいことに、次々と雑事を増やされてこめかみに怒りが溜まっていった。
落ちつけ、小さいぞ、俺。
自身でなだめてみるなんて滅多にないことで、うまくいかない。
なにもせずにゆらゆらと泳いでいる金魚を前に、水槽にデコピンしてやると、とたんにスーッと逃げてって、しっかり目撃していた梅野に怒られた。
こっちは不満顔だというのに、なにが楽しいのか、時々、鼻唄まで歌い出す梅野。
ムカついて、イスを運んでいる梅野に、からかい半分で足をひっかける。
「っ、」
すぐにバランスを崩した梅野の肘をつかんで、体勢を支えた。
長い髪が頬にかかる。
嫌なかんじはしなかったその感触の先で、梅野が目をぱちぱちさせていた。
「…夜市くん、意味不明なんだけど。
ひっかけて助かるって、どういう神経してるの」
「そうだな」