クズなアイツが惚れたなら、






「氷牙、学食行こ」


きっちり12時半に現れた直江。

立ち上がって廊下に出れば、背中を向けていた女たちが、チラチラと半回転して寄ってくる。



「氷牙くん、よかったら一緒にお昼食べない?」

「ごめんねー、俺ら友達同士で話あるから、また今度にしてくれる?」


「氷牙ー、どこ行くの〜?」

「あー、氷牙は今から俺と学食行くのー」



ふたりで、と強調しながら笑う直江に、女が若干引いて下がる。

いつもの光景だが、楽でいいな。


直江はこうして、俺が答えなくても俺の気分を読みとってうまくかわしてくれる。

今、ちょうど機嫌が悪い俺が無視でもすれば、波風が立ってややこしくなるところだった。



「なんかあった?」

「……」

「聞かないほうがいいかんじね、了解」



指で小さく丸をつくった直江と階段を下りた右角にある学食に入る。

何気なく全体を見渡した視線が、ふと止まった。
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