星空とピアス


そんな俺の(じゃないけど)ヒナが店奥の大きなテーブル席にちょこんと座ってメニューを眺めている。
男3人女4人の微妙な組み合わせだから、合コンなのかもわからない。
顔が見えないよう後ろ向きながらもそろり、とテーブルへ近づいた。

「ユキちゃんは何飲む?ここのカクテルはそんなに強くないから遠慮しないで好きなの言ってみてね。今日はユキちゃんの歓迎会でもあるんだから!」
「はい!ありがとうございます!お店、いい人ばっかりで初日からこんなにしてくれて嬉しいですー」
どうやらバイトの歓迎会らしい。駅前のカフェで働き始めて半年ほど経つヒナも先輩として参加しているようだった。
合コンではなさそうで、全体的に和やかな雰囲気にほっと胸をなでおろした。このままバレずにすませれば一番いいんだが。

と思ったのもつかの間、ヒナの隣に座る男が彼女にぐっと近づき声をかけるのが目の端に映った。

「ヒナちゃんは?なにが好き?」
「あ、えと、お酒はあんまり。まだ飲みなれてないので」
「ええー!そうなの?じゃあ練習しなきゃだね?これからもたくさん飲む機会あるし、好きなの知っておくといいよ。なんでも聞いてね!」

さらりと前髪をかきあげ、あからさまに幼なじみに近づく男の腕を締め上げたくなるのを、握りこぶしを固め我慢した。

一番年長らしい男の落ち着いた声が

「おいおい、あんまりからかわないように。今日はバイト同士の親睦会みたいなものなんだからね」
と軽く諌める。
よくやった年長。と心の中で拍手を送る。
えー、別にそんなんじゃないですよーなんてちゃらちゃら言う奴のことなんか聞くなよ、とこれまた心の中でヒナに釘を刺したところで、店の入り口からいらっしゃいませ、がいくつも聞こえてくる。いよいよ忙しくなってきた気配に後ろ髪を引かれる思いでヒナたちのテーブルを後にした。

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