オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 ~80億分の1のキセキ~
約束したバースデー
ーー7月3週目の火曜日。
朝、学校の廊下ですれ違うクラスメイトに挨拶をしながら教室に到着して机に荷物を下ろすと、先に登校している二階堂くんが私の机の隣に来てニコリと笑顔を向けた。
「早川。おはよ」
「あっ、おはよー。今日は学校に来るのが早いね。普段は私より遅いのに」
「うん、ちょっとだけ早く来た。あのさ、大事な話があるんだけどいいかな」
「どうしたの? かしこまっちゃって」
「少しの間でいいから渡り廊下のベンチで話さない?」
「いいよ!」
何処となく落ち着きのない様子の彼の背中について行き、扉付近でみちるとすれ違って「おはよ」と声をかけた後に彼の横につく。
ひと気が少ない二階の渡り廊下に到着すると、先に腰を下ろした彼に次いで両手でスカートを整えてから隣に座った。
ここは、教室から溢れているクーラーの冷気が窓から差し込んでくる日差しに負けてムワッと熱を帯びている。
この渡り廊下は壁と一体化している複数のベンチが設置されていて、朝は人通りが少なくて話をするにはもってこいの場所だ。
彼は腰が落ち着いた所を見計らって話題に入る。
「実は今週の金曜日、俺の誕生日なんだ」
「そうなんだ〜。おめでとう!」
「……そこでさ、せっかくだから早川にお祝いしてもらいたくて」
「もちろん! ……だけど、金曜日は17時から21時までバイトが入ってるから、始まる前の時間だったら……」
「ごめん、その時間は部活が入ってて……。バイト後なら会える?」
「それなら都合つくけど、時間が遅いから本当に少しだけになっちゃうよ?」
「早川に会えるだけで嬉しいよ。じゃあ、細かい事はまた当日に決めようね」
「わかった!」
私の差出人で出された手紙が彼に手渡った時、まだ彼女になる準備が出来てなかったから友達以上恋人未満と手を打ったはずなのに、実際はそこまで至ってない。
彼に任せっきりにしてるどころか努力を置き去りにしている。
本当は自分の口から誕生日を聞き出してサプライズでお祝いをしてあげるのが正解なのに……。
だから、誕生日は心を込めてお祝いしないとね。
結菜と陽翔が引き続き誕生日の話をしていると、渡り廊下に直結してる通路を歩いていた日向は2人が楽しそうに喋ってる様子を見て思わず足を止めた。
何をする事もなくじっと見つめていると、その後ろからやって来た杏は、渡り廊下の方を見つめている日向と、その向こうの様子に気づく。
陽翔……、そして日向。
杏は結菜を見つめている2つの目線に、火の粉が飛び散るくらいの嫉妬心が湧き上がっていた。