オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 ~80億分の1のキセキ~
恋をしていた自分
ーー夏休みに入ってから2週間が経過した。
父が再就職してからアルバイトは一度もしていない。
毎日高杉悟のインスタを眺めている。
通知が来る度に胸を躍らせてスマホ画面をタップ。
画面の向こうは陽気な笑顔。
それを見る度に、恋しくて、切なくて、涙が止まらないほど辛い。
今日は彼が出演しているドラマの最終回。
部屋のテレビを点けて、ベッドの上で体育座りをして観ていた。
最初から最後までいっときも目を離さずに見ていたはずだけど……。
『親友…………じゃ、無理……』
『あいつに……1秒でも……触れて欲しくない……から……』
セリフだと思って聞き入れていたあの時の言葉は、ドラマの中に一つも挟まれていなかった。
やっぱりあの言葉は私に言ったんだよね。
私達は恋しちゃいけない関係だから、『何を喋ったか全く覚えてない』なんて突き放してきたの?
……どうしよう。
ぼんやりとしていた言葉が鮮明になっていく度に恋しくなる。
そうだ、今から日向に電話して……。
結菜は机の上に置いていたスマホを掴み取って日向の電話帳を開くが、堤下の言葉が指を止める。
ダメだ……。
通話ボタンが押せない。
電話なんてかけたら今度はストーカー罪で訴えられちゃう。
あの時誓約書にサインしたのは自分自身なのに諦められないよ。
彼がいなくなってからその存在の大きさに気付かされた。
教室でうつ伏寝している姿を席から眺めたり、屋上で偶然会う事を楽しみにしていたり、私がピンチに直面しても見守ってくれてると信じて止まなかったり。
新学期になったら、もう二度とそんな日々が戻って来ないと思ったら胸がキュッと苦しくなった。
心が行き詰まってるから少し気分を紛らわせようと思って、リア王のアプリをタップしてゲームを起動させた。
あいつに出会う前までは誰もいない屋上でコッソリと王子様に会うのが当たり前だったのに、今は王子様がまぶたの裏に映らないくらいあいつの事で頭がいっぱいになっている。
結菜は日向が恋しく思うあまり、画面の向こうのヒナタに涙の雨を滴らせていた。