三日月だけが見ていたふたりの輝かしい生活
始まりの日
あと15秒・・・

10・9・8・・

3・2・・っ!

え?

マジか・・・!?

さっきからずっと睨みつけていた30%オフの唐揚げ弁当が目の前から消えた。

あと1秒で50%オフになるところを、ずっと、ひたすら待っていたのに。

現に50%オフのシールを片手に、コンビニの店員も待機していた。

利香は全身の震えを拳を握ってどうにか耐え、目の前から弁当をかっさらった人物の背中を睨んだ。

30%オフの弁当を手にしてレジに並んだのは男だった。

スーツを着てリュックを背負っていた。

リュックのファスナーが壊れていて、中身が少し見えていた。

今時小学生でも持たないような、マジックテープ付きのサイフをベリベリと開けて、小銭をカウンターに置いた。

その男は利香の存在などまるっきり目には入っていなかったのか、鼻歌混じりに唐揚げ弁当を受け取った。

レジ袋は断り、唐揚げ弁当を直にリュックに押し込む。

そのまま涼しい顔をして店を出て行った。

よくも、私の弁当を。

あまりの怒りで狂いそうだった。

店員も私の殺気を感じたのか、どうもすみません、と頭を下げた。

大学生風の店員はあまりの恐怖に慄いたのか、指先に貼りつけていた50%オフのシールを急いで丸めてゴミ箱に捨てた。

お前のせいじゃない。

だから安心しろ。

また明日来るからな、と無言で店員を威圧して店から出た。

街灯が等間隔に並ぶけやきの並木町。

前方をリュックの男が歩いていた。

同じ方向に帰ることさえも腹立たしい。

早く視界から消えろ、と祈ったが、願いは虚しくリュックの男は利香が住むアパートへと入っていった。


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