三日月だけが見ていたふたりの輝かしい生活
帰り支度をしていると、スマホがポロンと鳴った。

 武者からだった。

『今日、夕飯はどうするの?』

 今日は唐揚げ弁当じゃないのか?

 その通り、疑問符付で送った。

『今日は仕事が早く終わったから、大家さんにもらったキュウリで何か作ろうと思ってます』

 キュウリで何か?

 キュウリで何を?

「唐揚げ弁当買っていくからよいです」

『リョーカイです』


 今日は敵がいないから余裕で50%オフの唐揚げ弁当をゲットできた。

 学生アルバイトがなぜだかほっとした顔をしている。

 弁当を持って店を出ると、おぼろな外灯の下、壊れかけたパンプスを引きずって歩いた。

 黒い空には月があった。

 昨日より細くなった三日月が笑った口のように見える。

 暖かい色だな、とぼんやり思った。

 笑顔とか、黄色とか、そういうところが。

 武者の顔にもいつも笑顔がある。

 そういえば今日はあの部屋に帰る初日。

 第一声はやっぱり「ただいま」だよね、と利香は口がほころぶ。

そうしたら武者はまちがいなく、あの月のように口角を上げて「おかえり」と言うんだろう。
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