三日月だけが見ていたふたりの輝かしい生活
「ねえ。利香、化粧品変えた?」

 ミキが利香の顔を覗き込んだ。

 変えるも何も化粧品なんてここしばらく買っていない。

 顔にも塗れるハンドクリームしか使ってない。

 高い化粧品ばかり夢中で使っていた時期もあったけど、298円のクリームとどこが違うのか今ではよくわからない。

 頬を撫でてみる。

 頻繁にできていた吹き出物がなくなっている。

 そういえばこのところ便通もいい。

 あんなに冷え性だったのに、足元がポカポカしている。

「教えてよ、どこの化粧品?」

 いや、これはもしかして、と利香はスマホを開く。

 ドクダミの効能を調べると、そこには美容によいことばかりがつらつらと書かれていた。

 なるほど。

 こういうのを何と言うのか。

 怪我の功名?

 棚ぼた?
 
 武者の笑顔を思い出す。

 今日帰ったら武者の顔をよく観察してみよう。

「何ニヤニヤしてんの?」

 ミキが利香の腕を肘で押す。

「綺麗になって、ニヤニヤして、それってこれしかないよね」

 ミキが下品に親指を立てる。

「いやいや、それはマジでない」

「ふーん。つまんないの」

 ミキは頬を膨らませてから、はい、と利香に手のひらを差し出す。

「何?」

「千円」

「な、何?」

「バレンタインデーの徴収金」

「そんなに」

 せっかく肌が綺麗になったのに、また現実に突き落とされた。

 
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