三日月だけが見ていたふたりの輝かしい生活
今日は負けない。

利香は駅からコンビニまでの道のりを、戦にでも向かう戦士のように勇んで歩いた。

あたりをつけている他の店にしようかとも思ったが、食べ損ねた唐揚げ弁当をどうしても食べたいと執念を燃やしていた。

でも、あの男は昨日唐揚げ弁当を食べているのだから、今日は別の物にするだろう。

今日こそ50%オフでゲットしてみせる。

580円の弁当だから、290円で食べられるのだ。

諦めるわけにはいかない。

店の明かりが煌々と見えてきた。

士気が高まる。

颯爽と扉を開けると、カウンターの中の学生バイトが、またか、というげんなりした顔をした。

いらっしゃいませ、も言い忘れた店員に、怒りも興味もない。

目指すはただひとつ、唐揚げ弁当だ。

おお、あった。

まだ30%のシールを貼って初々しく棚に乗っている。

もうすぐ歳を取りお払い箱になる弁当を私がもらってあげるのだ。

そう思えば惨めさも半減する。

時計を見た。

あと1分。

背後を警戒して、チラチラと目を向ける。

「いらっしゃいませ!」

店員の声が響く。

来たか、武者め!

利香はサッカー選手がボールを死守するみたいに両手を開いて唐揚げ弁当を守った。

「あの、シールを」

店員が50%のシールを指先に貼りつけて立っていた。

「あ、すみません。どーぞどーぞ」

店員に唐揚げ弁当の真前を譲り、シールが貼られたその瞬間、あっ、弁当が消えた。

振り返ると武者が立っていた。

50%のシールに一瞬見惚れ、隙ができた。

「あ、どーも、こんばんわ」

スーツに壊れたリュックを背負った武者が、汚れのない笑みを浮かべ、唐揚げ弁当を持っていた。

「また、勝っちゃいましたね」

「ず、ずるい」

「ズルなんてしてないよ、全然」

「だって私が先に」

「いや、なんかどいたから、今日は買わないのかなって思って」

「どいた?どいたって、それは店員さんがシールを貼るから」

悔しすぎて涙が出そうだった。

武者は弁当を持ってレジに並んでいる。

背後から睨みつけている利香の殺気を感じたのか、振り返った。

「大切な誰かが餓死しそうなら俺は弁当を譲るよ」

「え?」

「でも、あんたは赤の他人だからね」

武者はまたレジに向き直ると、マジックテープをベリベリ剥がして小銭を出した。

許せない。

我慢ならない。

でも、もうどうしようもない。

仕方なくさんまの蒲焼きの缶詰を手にレジに並び、百円玉を叩きつけると、店を出て行く武者を追った。

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